『かぐやは月には帰れない』◆第14話 機嫌が良い翁(おきな)

(翁視点)

朝日と共に起きるのが、こんなに気持ちいいものだとは思わなかった。

鳥のさえずりも、朝の光も、草についた雨露も、向こうにはなかった。

月の民にとってはこちらの環境は厳しい。

だが、この世界は悪くない。むしろ面白い。

今はオウナがかぐやの看護に専念しているため、オウナがやっていた仕事を私が引き継いでいる。

私の元々の仕事は、しばらく制限してもらっている。

それよりも大事なことが今はある。

水を汲み、道具を整え、畑の端を見回る。

朝の空気は澄んでいる。仕事がしやすい。

そんなとき、背後から声がした。

「おや、翁さん。今日も早いねぇ。」

振り返ると、村の古株の老人が立っていた。

腰は曲がっているが、まだ目は若い。

「最近オウナさんを見ないけど、元気かい?」

「ええ、元気でやってますよ。」

老人はそれ以上、オウナのことも家のことも聞かない。

この距離感がいい。

気を使っているわけでもないのに、ちょうどいい。

「ふーん……翁さん、なんだか嬉しそうじゃないかい。

なにかいいことでもあったのかい?」

私は普段、表情があまり変わらない。

だが、この老人には昔から見透かされる。

「ふっ……ばぁさんには隠し事はできねぇな。」

声が少しだけ柔らかくなった。

「まあ、今は詳しく言えねぇが……確かに嬉しいことはあったさ。」

老人は「そうかい」とだけ言い、それ以上は聞かなかった。

──かぐやが目を覚ました。

まだ油断はできない。

意識が戻っただけで、身体はボロボロだ。

地球の重力に慣れるまで半年はかかる。私がそうだった。

それでも、あの子が意識を取り戻したという事実は十分だ。

オウナも疲れてはいるが、生き生きしている。

二人にしかない距離感があるので、私は邪魔しないようにしている。

オウナの精神も心配だったが、かぐやが良い影響を与えているようだ。

家の空気が少し明るくなった。

その様子を見るたびに、自然と機嫌が良くなる。

老人に見抜かれるほどに。

──そういえば、先日回収した貨物用カプセル。

半分ほどひしゃげて、潰れた鉄の塊になっていた。

あれでよく生きていたものだ。

身体に大きな欠損がないのも奇跡だ。

狭く押し込められていたのが逆に作用したのか。

運が良かっただけか。

それとも別の理由か。

考えても答えは出ない。

今はただ、かぐやを完治させることが先だ。

オウナのように同時にいくつもこなすのは得意ではないが、引き継いだ以上、手は抜けない。

私なりにやるだけだ。

かぐやはしばらく要安静で、容態が落ち着いたら少しずつリハビリを始める予定だ。

リハビリが始まれば私も手伝うつもりだ。

今はまだ安静が優先。

身の回りの世話は同じ女性であるオウナが適任で、私は出る幕がない。

かぐやは若い女性だ。それでいい。

だが、リハビリが始まれば力仕事も増える。

そのときは私の出番もあるだろう。

朝の光が少しずつ差し込み、畑の影が伸びていく。

今日もやることは多い。

だが、嫌ではない。

あの子が生きている。

それだけで十分だ。

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