◆第7話 かぐや救出劇
語り手(翁視点)
息があると分かっても、胸のざわつきは収まらない。
一刻の猶予もない。
「すぐ担架を!急げ、揺らすな!」
仲間が駆けつけ、簡易担架を広げる。
俺たちは彼女をそっと抱き上げ、慎重に移した。
光が入らないよう黒布をかける。
昼の光を避けるため、廊下のカーテンはすべて閉じられている。
その奥、療養室で妻の嫗(オウナ)が待っていた。
「おかえり。……その子が?」
「ああ。貨物用カプセルに押し込まれてた」
「……貨物用……?」
オウナの顔色が変わる。
「本気なの……? あんなの、人を乗せるものじゃないのに」
「分かってる。だから衰弱がひどい。生きてるのが奇跡だ」
オウナは息を呑み、すぐに表情を引き締めた。
「こっちに寝かせて。ゆっくり……揺らさないように」
俺は頷き、かぐやをベッドに横たえる。
オウナは少女の頬に触れた。
震える指先が、怒りと悲しみを隠しきれていない。
「……誰が、こんなことを……
こんな若い子に……どれだけつらい思いをさせたのかしら」
「許せねぇな……」
「ええ。必ず、あの子にした仕打ちの報いは受けさせてね」
その声は静かだったが、芯があった。
俺は深く頷く。
「分かってる。それより、この子を頼む」
オウナはすぐに看病に取りかかった。
俺はただ祈るしかなかった。
ーーー
かぐやの浅い呼吸を見ていると、嫌でも思い出す。
俺もこの星に来たとき、死にかけた。
“人間用”のカプセルだった俺でさえ、だ。
オウナの看病がなければ、今ここにはいない。
彼女とはこの地で出会い、ここで夫婦になった。
地球出身だが、先祖に月の民が混じっているらしい。
ーーー
オウナがかぐやの額にそっと触れた。
「この子、月でどんな扱いを受けてきたんだろうね……」
「想像もしたくない。
でも、この子はここまで来た。
もうあいつらの手は届かない。
この子の居場所は、俺たちが作る」
オウナは静かに頷いた。
「ええ。この子はもうひとりじゃないわ」
その言葉に、張りつめていた肩の力が少し抜けた気がした。
「……なんとかなりそうか?」
「わからない。でも貨物用で欠損がないなんて奇跡よ。
なんとしてみせるわ」
オウナの微笑みに、ようやく俺も息がつけた。
ーーー
しばらくすると、外がざわつき始めた。
「おい、翁のとこに隕石が落ちたらしいぞ!」
「そん中から若い美女が出てきたって!」
「なんで石から女が出てくるんだ?」
「知らねえ、でも見たってやつがいるらしい!」
村の噂話だ。
オウナが苦笑する。
「まあ、間違ってはないわね」
「放っておけ。すぐ落ち着く」
俺は深く息を吐いた。
「……まずはこの娘を地球に慣れさせる。
それが俺の仕事だ」
少女はまだ眠っている。
だが、生きている。
それだけで十分だ。
俺は拳を握り、静かに決意を固めた。
薄暗い療養室で、俺と妻はしばらく彼女の呼吸を見守っていた。
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