『かぐやは月には帰れない』第10話 はじめての朝

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第10話 はじめての朝

(かぐや視点)

光の幕が、ゆっくりと上がっていく。

まぶたの裏に広がる輝きは、

昨日までより少しだけ優しかった。

息を吸う。

まだ胸の奥が重い。

でも、ちゃんと吸える。

それだけで、ちゃんと自分の体だと思わせてくれる。

世界が形を取り戻してきたみたいだ。

畳の匂い?

乾いた薬草の香り?

布の擦れる音?

誰かの優しい気配、手に触れるとても優しい温もり。

きっと知らない人なのに、全然嫌じゃない。

まるで、ずっと昔から知っていたみたいに、心が安らぐ。

姿もちゃんと見えない。

目をちゃんと開けられているかもわからない。

髪の色も、表情も、

何ひとつはっきりしない。

でも——

その人の“あたたかさ”だけは、

はっきりとわかる。

あたたかい。

落ち着く。

この人がこの手を離さずにいてくれたから、“ここまで”来れた気がした。

「……起きたのね」

声が柔らかくて、

遠くて、

でも耳の奥にそっと触れる声。

その声を聞くだけで、

胸の奥がじんと熱くなる。

声を出そうと喉が震えた。

でも、うまく音にならない。

「無理しないでいいのよ。

……大丈夫。」

その優しい言葉が、

ゆっくりと私の中に沁みてゆく。

私は、なんとか息を震わせた。どうしても震わせたかった。

「…マ……」

なぜこの言葉が出てきたのか、私はわからない。

違うってわかってるのに、なぜかこの言葉しか出てこなかった。

「……ママ…?」

自分でも、どうしてそんなふうに呼んだのか、わからない。

この人は、お母さんじゃない。

お母さんは、私にこんな優しい声をかけてくれたことはない。

こんなふうに寄り添ってくれたことも、私の記憶には一度もない。

そもそも“ママ”なんて人生で一度も呼んだことがない。呼ばせてもらったこともなかったのに…。

なのに——なぜだろう?

この言葉しか出てこなかった。

存在しない“ママ”を呼ぶように。

まるで、

ずっと心の奥にしまっていた

小さな願いが

勝手に形になったみたいに。

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