『親子バンド イカれた息子とスラップ厨の父』 第三話「伝説のロックスター降臨」
(語り手:息子)
文化祭当日の朝。
目を覚ました瞬間、鼻をつく刺激臭で目を覚ました。
なんだこの匂い……?
火事か…?いや違う。もっとこう……化学的ななんか…。
寝室からでて階段を降りると、床一面にヘアスプレーの缶が転がっていた。
「え…?なにこれ…?」
10本?いや20本?
「おはよう!」
いつもの父さんの声が聞こえたが、目に映るのは、ピンクの長髪が逆立ち、白塗りの顔に、目の周りが黒く、口元は赤い?
「…え?…だれ?…夢?
X JAPAN?
全盛期の?
降臨した?」
「何を言っている?寝ぼけているのか?父さんにきまっているだろう!」
「……はわ?」
本当にねぼているのかもしれない…。
寝起きの脳で処理するには、とにかく情報量が重すぎる。
「まあ、バンドといえばこういう感じだからな」
そうなのか?天才の思考は自分ではとても理解できない。でも父さんの足を引っ張るわけにはいかない。
「やっぱ天才なの?父さん。」
「いや、ただのしがないサラリーマンだな。趣味でベースやってる在宅系ソロベーシストだ。」
「うん…。そういうジャンルの頂点ってことね…。」
「お前もやるか?」
「いや、僕には荷が重いよ。あと校則もあからね!」
「そうか、似合いそうだと思ったんだがな…。」
残念そうな父さんだった。
ーーー
家を出る時間
「そろそろ学校いかなきゃね!」
「よし、行くか。」
「この格好で!?」
「もちろん!」
「だよねー。父さん超似合ってるよー。」
—
家を出た瞬間、事件が始まった。
父さんが歩くたびに、近所の人が振り返る。
子どもは泣き叫び、
犬は吠え、
女子高生は写メを撮りまくる。
「ねぇあれ誰!?」「やばくない!?」「本物!?」「何の本物!?」
父さんは普通に歩いているだけなのに、
周囲の空気が完全にライブ会場前だった。
そして角を曲がったところで──
パトカーが止まった。
警官が降りてきて、父さんを見た。
「すみません、ちょっと……いいですか?」
父さんは伝説のビジュアル系のまま言った。
「なんでしょう?」
「……その……今日は何かのイベントですか?」
「文化祭です。」
「文化祭……?」
警官は明らかに怪しんでいた。
そりゃそうだ。
朝の住宅街に全盛期のビジュアル系が歩いてるんだから。
俺は慌てて説明した。
「あの、父なんです!今日、僕の学校で演奏するんです!」
「お父さん……?」
警官は父さんを見た。
父さんは白塗りで微笑んだ。
完全にアウトぽかった。
警官は無線に手を伸ばしかけた。
やばい。
このままじゃ父さんが“職質からの署までコース”になる。
そこで俺は言った。
「父さん、スラップを披露してあげようよ!」
父さんは頷いた。
ベースを背中から下ろし、
電池式の小型アンプを地面に置き、
シールドを差し込んだ。
そして──
道の真ん中でスラップを始めた。
最初の一音で、空気が変わった。
通行人が足を止め、
近所の人が集まり、
女子高生が動画を撮り、
警官も無言で見つめた。
父さんは白塗りのまま、
全盛期のビジュアル系の格好で、
超絶スラップを披露した。
演奏が終わると、
拍手が起きた。
警官も拍手していた。
「……すごいですね。どうぞ、お気をつけて。」
伝説のビジュアル系は軽く会釈してその場を後にした。
—
だいぶ時間がかかったが、なんとか無事、学校に着いた。
文化祭というイベントを加味しても、
父さんは目立ちすぎていた。
生徒たちがざわつく…
「誰あれ!?」「有名人!?」「コスプレ!?」「本物のミュージシャンじゃね?」
伝説のビジュアル系が歩くだけで歓声が上がる。
いつのまにか、父さんの両手には大量の食べ物が…
「差し入れだって…お金払ってないんだけど大丈夫かな?」
父さんは心配性だった。
演奏までまだ時間があるので文化祭を見て回ることにした。
とにかくすぐ生徒に囲まれてしまう。
気づけば父さんの前には大行列ができていて、気づけば俺はイベントの整理係になっていた。
「一列に並んでください!
1人につき写真は2枚までにしてください!!
動画はご遠慮ください!!」
父さんは黙々と写真撮影をこなしていた。
先生たちは遠くから見ていたが、
誰も止めなかった。
勘違いした校長先生が一緒に写真を撮りにきた。写真ができたら校長室に飾るらしい。
ファンサービスをしているうちに、そろそろ準備を始める時間になってきた。
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