『親子バンド イカれた息子とスラップ厨の父』 第四話「控え室という名の異空間」
(語り手:息子)
父さんが文化祭の敷地に足を踏み入れた瞬間、
生徒たちのざわめきが一段階上がった。
「やば…本物じゃん…」
「プロ呼んだの?」
「今日の文化祭、予算どうなってんの?」
父さんはただのサラリーマンだ…
いや、本来サラリーマンで収まっていることが奇跡なのだ!
—
◆ 急遽つくられる“控え室”
「えっと…こ、こちらへどうぞ!」
実行委員の子が、明らかにテンパった声で案内してきた。
案内されたのは、
普段は使われていない空き教室。
ドアには紙で作った急ごしらえの札が貼られていた。
『控え室(出演者以外立入禁止)』
いや、文化祭に控え室なんて存在しないはずなんだけど…
まあ父さんだからか…
中に入ると──
机が端に寄せられ、
パイプ椅子が並べられ、
なぜかテーブルの上には大量のお菓子とペットボトルの飲み物たち。
「こちら、差し入れです!足りなかったらまた買ってきますので!」
実行委員の子が深々と頭を下げた。
「ありがとう。助かるよ。」
父さんが言った。
もう誰が見ても“本物のミュージシャン”だった。
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◆ なぜか挨拶に来る関係者たち
控え室に入って数分。
挨拶は途切れない。
実行委員の別の子が挨拶に。
「失礼します!本日はよろしくお願いします!」
父さん
「ああ、よろしくね。」
続いて、教頭先生が挨拶にきた。
「私は教頭をしております!
本日は、我が校の文化祭にご出演いただき、誠にありがとうございます!」
父さん
「教頭先生、こちらこそ、よろしくお願いします。」
伝説のミュージシャンは、その見た目に反して、サラリーマンのような物腰の柔らかさだった。
その謙虚さに教頭先生は感動して、サインをおねだりしていた。
—
◆ 女子高生が入り浸る控え室
気づけば控え室の一角には女子生徒が入り浸っている。
「マジいいんだけど!」
「ヤバすぎ!」
「インスタのせよ!」
父さんを女子生徒が囲んで写真を撮られる時間が数分続いた。
なんの抵抗もせず優しく微笑む父さんだったが、撮影の終わり際に、
「お腹空いただろう?ささ、ここにお菓子がいっぱいあるから食べなさい。」
女子高生たちは歓声を上げて、
控え室は完全に“溜まり場”と化した。
「あーこれ、人が増えてくスタイル?
教頭も普通にまだ居座ってるし…。」
この部屋の主役(父)は言った。
「まあまあ、みんな普段から疲れているだろうからね。少しでも休めるならいいんじゃないか。」
いや、そういう問題じゃない。
—
◆ そして──乱入者
控え室のドアが勢いよく開いた。
「あ、いた!!
昨日はよくもやってくれたな!!!
1人でやるとか正気か!?
なんで謝りにこねぇんだよおぉ!!!!」
バンドメンバーの三人が立っていた。
• ベースのボン
• ドラムのタタキ
• ギターのジャン
父
「この方たちは?」
「あぁ、父さん。昨日言った、音楽の方向性の違いで解散したメンバーたちだよ。凡人の」
ボンが怒鳴った。
「音楽性の違い??
てめえが煽ってきて、キレたら投げ飛ばしてきたからだろうがぁぁあああ!
まだ、ケガもベースも治ってねぇんだよおおおぉお!!!
あと、凡人っていうんじゃああねええぇええエエ!!!」
忘れてた…ベースのボンに“ぼん”とつく単語は禁句なんだった。
「まあ、おちつけよ。ボ…ボ…ボーイ…。」
「ボーイじゃあねえよお!!また余計なこと言おうとしただろうオオオ!!」
その瞬間、伝説のミュージシャンが立ち上がる。
「ボン君だね。いつも息子と仲良くしてくれてありがとう!君の話はいつも聞いているよ!ピックで疾走感のあるベースが最大の武器みたいだね!僕はピック弾きはできないから同じベーシストとしてとても尊敬しているよ!」
すぐキレる短気なボンだが、
父さんを見て固まった。
「……え?
父さん…?
ロックの…?
神…?
全盛期の…?」
肩をポンポンと叩かれたボンは放心していた。
タタキも言った。
「ガチじゃん…」
ジャンは小声で言った。
「……すご!…肩をポンポンする手の形もスラップなんだ…?」
三人とも、怒りが一瞬で消え、尊敬の眼差しに変わった。
そしてなぜかボンが謝ってきた。
「昨日は…すみませんでした…!!!
自分の実力不足、いや…努力不足でイライラしていて…ついベースを傷つけてしまいました!!」
いや、謝るのそっちなの?
そして、多分ベース傷つけたの俺なんだけど…
父さんはボンの肩を親指でベシベシやりながら言った。
「気にするな。若い頃は誰でもある。私もそうだった。いや…今でもそうだ!」
ボン
「…神様…」
ボンは泣いていた。
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◆ メンバーが勝手に馴染む
気づけば、
• ボンは父さんにスラップを習っていて
• タタキは女子高生と一緒にお菓子食べていて
• ジャンはよくわからず髪を逆立てていた
控え室はファンがたむろする異様な空間になっていた。
俺は言った。
「これ…文化祭だよね?」
父さんは水を飲みながらにっこりしながら言った。
「そうだ、これが文化祭なんだ。」
いや、なんか違う。
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◆ そして──ステージへ
実行委員が控え室に飛び込んできた。
「そ、そろそろ出番です!!」
父さんは立ち上がり、
ベースを背負った。
「いくか、息子よ。」
「……ああ、父さん。」
こうして俺たちは、
異空間の控え室を後にして、
ステージへ向かった。
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