(かぐや視点)
どれくらい闇をさまよっていたのだろう。
自分が生きているのか、死んでいるのかもわからない。
漂っているのか、沈んでいるのか。
どこへ向かえばいいのかも、もう思い出せなかった。
それでも——
私を繋ぎ止める“何か”があった。
右手に感じる、あたたかい温もり。
これはなんだろう。
こんな温かさ、今まで感じたことがない。
月の人は、誰も私に触れたがらなかった。
これが何なのか、確かめたい。
そう思った瞬間、空気の音が聞こえ始めた。
目が覚めた。
見たことのない天井。
石のように重い身体。
湿った空気。
薄暗い部屋。
そして右手に残る、あの温もり。
うっすら見える、敵意のない女性。
あぁ……私、何をしていたんだっけ。
ここはどこだろう。
私は何をしなきゃいけなかったんだろう。
でも、そんなことが考えられなくなるくらい——
その温もりは、あまりにも優しかった。
「おはよう。身体はどう?」
女性の声。
とても優しい声。
よくわからないけれど、涙が出た。
声はほとんど出なかったけど、涙だけは止まらなかった。
気づけば、わんわん泣いていた。
月では泣いたことなんて一度もなかったのに。
涙は止まらず、耳まで伝っていく。
涙でほとんど見えないけれど——
私の手を握るこの優しい女性も、一緒に泣いていた。
どうしてこの人は泣いているんだろう。
私のために泣いてくれる人なんて、月にはいなかったのに。
理由はわからない。
でもきっと、とても優しい涙。
それだけはわかる。
その女性は、私の胸に沿うように寄り添って泣いてくれた。
理由はわからない。
でも——
この人は優しい。
それだけは、はっきりわかった。
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