『親子バンド イカれた息子とスラップ厨の父』 第六話 伝説のステージ
◆ 語り手:父さん
まさかこんな日が来るとは思わなかった。
息子とステージに立つ日が。
最初で最後のステージになるだろうが、
なんとか成功させたいと思う。
横を見ると、息子の横顔がライトに照らされていた。
逞しいよ。大きくなったな。
—
◆ 語り手:息子
与えられた時間は15分。
空気に飲まれて、リハも打ち合わせも音合わせも何もできてない。
父さんの足だけは引っ張りたくない。
なんとか形にしたい。
でもどうすれば?
ステージ上では相談すらできない。
──父さんには気持ちよくベースを弾いてもらえればいい。
だから俺がこのバンドを引っ張る。
俺
「えー、みなさん!集まってくださりありがとうございます!親子バンドです!」
観客
パチパチパチ…
俺
「まずはこの曲から。俺たちのオリジナルソングです。聞いてください!
父さん!あの曲で行こう!」
父さん
「あ、ああ……??」
—
◆ 語り手:父さん
そういえば、何をやるのか全く考えていなかった。
息子よ、どうするんだ?
ん? オリジナルソング?
俺たちの?
なんだいそれは?
“俺たち”?
あれか?
**『スラップ鬼の超絶技巧練習教本』**のフレーズメドレーか。
息子にはあれしか聞かせたことがない。
いや、俺もそれしか弾けない。
じゃあ、いっちょ行こうか。
やることは明確だ。
—
◆ 語り手:息子
昨日、父さんにオリジナルソングの楽譜を見せた。
天才な父さんなら、きっともう弾けるはずだ。
父さんは「すごいな!自分で書いたのか?」と褒めてくれた。
父さんが楽譜を読んでるところは一度も見たことがない。
父さんは頭の中に全部イメージがある人なんだ。
言葉は少なくても、
昨日の曲だと父さんはわかっている。
だって親子だから。絆で繋がっているから。
──そう信じていた。
突如、始まる高速スラップ。
体育館に響く重低音。
高速で切り替わるサムピングとプル。
もはや音さえ置き去りにしている。
俺
「!?」
な、な、なんだ?
こんなアレンジ聞いたことがない。
俺たちの曲をスラップにすると、
こんなバキバキの超絶技巧曲になるのか?
音の隙間が……ない!
入れない!
入れる場所が一ミリもない!
—
◆ 語り手:父さん
私は楽譜も読めないし、ルート弾きもできない。
誰かと合わせたこともない。
だから息子の要求は、
前に聞かせた“スラップ超絶技巧集”をやれということだろう。
見せよう。
私の集大成を。
—
◆ 語り手:息子
父さんの超絶スラップは3分間続いた。
俺はまだ入れずにいた。
入る隙がないのだ。
歓声はある。
だが、観客がざわつき始めていた。
ベースだけ。
いや、棒立ちのギター&ボーカルが不自然すぎる。
俺が足を引っ張っている。
考えている間に、父さんの演奏が終わった。
パチ…パチ…パチ…
観衆
「え?終わったの?ベースだけ?」
「確かにすごいけど…」
「オリジナルソングって言ってたよね?ソングしてた…?」
まずい。
せっかく高まった期待を壊すわけにはいかない。
俺は頭をフル回転させた。
俺
「えー、みんなありがとう!
今の曲、不思議に思った人もいるかもしれない!」
観客が息を呑む。
俺
「だけど俺たちのバンドは“前衛的な音楽”に挑戦するっていうテーマがある!
この曲は、凄まじいベース音から始まり、ベースのみで終わるという大胆な構成だ!」
観客
「……」
俺
「でも、そのみんなの不安や疑問も音楽なんだ!
みんなのソワソワした心そのものが、この曲の“ソング”になっていたんだ!」
そのとき、誰かが叫んだ。
??
「これは現代音楽だぁああああああ!!!!
すばらしいいい!!!!」
音楽教室の田中ワルツ先生だ。
観衆
「ああ、現代音楽!?なるほど…現代音楽か!!」
「なんだ?現代音楽って?」
「よくわからないけど素晴らしいものらしい!拍手だ!!」
パラパラだった拍手は、
一気に豪雨になった。
…なんとかなった。
あと10分。
次は何をやろうか。
—


コメント