第9話 落ちていく夜 薄闇の温度
(かぐや視点)
爆発音と衝撃で意識が戻った…。
でも、動けない、息ができない、怖い…。何も見えない。
頭も痛い。吐き気がこみ上げる。
狭い。金属と血の匂い。
ギリリと嫌な軋む音がする。
——ここは、どこ。
手を動かそうとした。
でも何も動かない。もう自分の手がどこにあるのかすらわからない。
恐いよ、痛いよ、辛いよ…
わたしはどうしたらいい?
ここはどこ?わたしはどうなってる?
意識が飛びそうになったが、気持ち悪くてまた戻ってきてしまう…
もうだめかも…
「…っ、あ……」
声にならない。
そのとき、外から強い光が差し込んだ。
眩しい。湿った空気が流れ込む。
「……生きているか……?」
男の人の声…
だれ…?とても力強い声…
聞かれている…?
なにか…しゃべらなきゃ…
「…っ、あ……う……」
何かいわなきゃいけないのに、
声が出せない…
意識がとびそう…
「…大丈夫だ!俺たちにまかせてくれ!…」
またさっきの力強い男の声…
でも、不思議と怖くはなかった…
そこで意識が途切れ、
心が深いところまで沈んでいった…
音も光も届かない場所まで。
—
次に意識が戻ったとき、自分は横になっていたのだろうか。
耳鳴りと頭痛で歪む世界を正しくは認識できなかった。
隙間から、細い光が漏れているようだ。
まぶた越しでも目が焼けるくらい眩しい。
「……っ」
声を出そうとしたら、喉に激痛が走った。動かない、声にならない。
まるで、自分の喉ではないみたいだった。
体も動かない。
指も、腕も、足も。
地面に縫い付けられたみたいに重かった。
気持ち悪い…
頭の奥がぐるぐる回って、
吐き気が波のように押し寄せる。
ここは……どこ。
夢なのか現実なのかもわからない。
ただ、光が私を責め立てる。
空気も重い。世界が私を拒絶する。
そのとき薄れゆく意識の中で感じたもの。
とても暖かくて、今まで感じたことのなかったもの。
でも、ずっとずっと欲しかったもの。
私の手にあたたかいものが触れた。
誰かが、私の手を握っている…
月では、こんな温度を感じることができなかった。
物心ついたときから、母にも触れられたことはなかった。
他の人も誰も私に近づこうとしなかった。私は傷つけたりなんかしないのに…
月ではそれが当たり前だった。
だから、私はこの手に触れる温かさを知らない。
でも心のどこかには、この温もりを感じる部屋があったみたいだ。
とても新鮮でとても懐かしい。
ぎゅっと握られたわけじゃない。
ただ、そっと包むように。
体全体が支えられてるみたいだった…
「……だいじょうぶだよ。」
女性の声…
静かで、耳の奥に優しく届く声…
それだけで怖さが和らいだ…また意識を失う怖さから。
ここがどこなのかも、
誰がそばにいるのかも、
まだわからない。
でも、この温かさだけは、
確かに“現実”だった。
私はその手にすがるように、
ほんの少しだけ指を動かそうとした。
でも動かなかった。
それでも握っていてくれるその温度が、大好きだった。
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