『親子バンド イカれた息子とスラップ厨の父』 第九話 アンコールの向こう側
(語り手:息子)
最後の曲が終わったあと、
体育館は一瞬だけ静かになった。
そして──
観客
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
「アンコール!!アンコール!!」
「もう一回!!!」
体育館が揺れている。
床が震えている。
天井の鉄骨が鳴っている。
父さんは、
汗だくのままベースを抱えて立っていた。
俺は、
息が切れて、
でも胸が熱くて、
涙が止まらなかった。
田中ワルツ先生は、
ピアノの前で泣きながら笑っていた。
父さんが俺を見た。
父さん
「……どうする?」
俺
「父さんは……どうしたい?」
父さんは少しだけ笑った。
父さん
「……お前はどうしたい?」
俺
「……応えたい。
こんなに呼ばれて……
応えない理由がないよ。」
父さんはベースを見つめた。
そして、
そっと弦を撫でた。
父さん
「……応えるしかないだろう。」
ワルツ先生
「私も……最後まで……一緒に……!!」
三人でステージ中央に集まった。
汗だくで、息が上がって、
でも笑っていた。
父さんが、
軽いスラップでBGMを作り始めた。
ドゥン……ドゥン……ドゥン……
ドツドツドツッ!
バチバチバチッ!
ドンッドンッドンッ!
(優しい、でも深い音)
体育館が静かになっていく。
観客のボルテージが、
ゆっくりと落ち着いていく。
ワルツ先生は泣きながら笑っている。
俺は胸が熱くて震えている。
父さんのスラップが、
まるで“終わりのための道”を作ってくれているみたいだった。
俺は深呼吸して、
観客に向き直った。
俺
「じゃあ……
みんな一緒に……
せーの。」
観客
「ありがとーーーー!!!!!!」
その瞬間──
三人は同時に音を鳴らした。
ピアノは最高の和音でガーーーン。
ギターは全力のジャーーーン。
ベースは最低音の開放弦Bをドォォォォォン。
音が重なり、
揺れ、
溶け、
消えていく。
その一音が、
すべてを締めくくった。
静寂。
観客の歓声が、
遠くで波のように揺れている。
三人で抱き合った。
汗だくで、息が上がって、
でも笑っていた。
父さん
「……いい音だったな。」
ワルツ先生
「一生の宝です……!!」
俺
「うん……最高だよ、父さん……先生……」
ステージの光がゆっくりと落ちていく。
歓声が遠ざかる。
熱が静かに沈んでいく。
俺たちは、
ゆっくりとステージの奥へ歩き出した。
振り返らない。
もう十分だ。
暗闇に入る瞬間、
父さんが小さく呟いた。
父さん
「……伝説よ、フォーエバーだ。」
俺
「うん……フォーエバーだよ、父さん。」
光が消える。
音が消える。
でも、
胸の中の音だけは、
ずっと鳴り続けていた。
──これが、
俺たちの“伝説のステージ”だった。


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